「キャリア」というと、つい「仕事」にだけ目を向けていませんか?
私たちは、仕事(ビジネスキャリア)以外にも、家庭での役割、趣味や地域活動といった様々なキャリア(ライフキャリア)を積み重ねながら、日々生活をしています。
今回は、キャリアを仕事だけではなく人生全般として捉えるキャリア理論、「ライフキャリア・レインボー」について詳しく説明します。「ライフキャリア・レインボー」を描くメリットも紹介しますので、ぜひご活用下さい。
「ライフキャリア・レインボー」とは?
「ライフキャリア・レインボー」は、1950年代にドナルド・E・スーパー(Donald E.Super)が発表した理論です。
人生の様々な場面における役割を組み合わせ、虹のようにキャリアが積み重なっていくことから、「ライフキャリア・レインボー」と名前がつけられました。発表されてから70年以上経ちますが、現代においても再注目されています。
5つの段階(ライフステージ)
ライフキャリア・レインボーには、5つの段階(ライフステージ)が存在します。
1.成長段階(0歳~14歳)
家庭や学校での経験を通して、「自分はどのような人なのか」を考えたり、働く意味を理解したり、仕事への関心が高まったりする時期です。
2.模索段階(15歳~24歳)
学校生活やアルバイト、就職、余暇活動などで試行錯誤をすることを通して、自分自身の興味や関心を模索し、特定の職業に絞り込んでいく時期です。
3.確立段階(25歳~44歳)
前半は、実際に仕事をする中で自分の適性や能力について試行錯誤を繰り返す時期です。後半は、キャリアビジョンが明確になり、自分の適性や能力を生かしながら専門性を高め、キャリアを確立する時期です
4.:維持段階(45歳~64歳)
仕事での役割や地位は確立され、安定志向が高まります。今までのキャリアを維持することや、さらなるスキルや知識を習得する時期だと言われています。この時期の最後には引退後のセカンドライフの計画を立て始めます。
5.解放段階(64歳~)
精神的・肉体的な衰えから職業活動から引退する時期です。地域活動や趣味を楽しみ、家族との時間を過ごすなど、セカンドライフを充実させることが新たな課題です。
8つの役割(ライフロール)
ライフキャリア・レインボーでは、人生における8つの役割を「ライフロール」と呼んでいます。これらの役割を全部を経験する人もいれば、一部だけ経験する人、これ以外の役割を経験する人など様々です。
1.子ども
親との関係における自分を指します。「子ども」は私たちの誰もが経験する役割の一つで、幼い頃はこの役割がほとんどです。親が亡くなるまで「子ども」という役割は続きますが、成人するにつれて親を庇護する立場に逆転することが多いでしょう。
2.学生
小・中・高校、大学などで学ぶ役割が「学生」です。働きながら夜間に学校で勉強する人も「学生」です。
3.職業人
働いている人、全てを指します。アルバイトやパートも立派な職業人としての役割です。
4.配偶者
夫、妻の役割を指します。法律上夫婦でない場合でも、生活を共にするパートナーはこの役割です。
5.家庭人
家事全般をするやる役割で、家族の一員として家庭を安定的に営むために、ほとんどの人がこの役割を果たしています。
6.親
子どもを養育する役割です。子どもを持った時から「親」の役割が生まれます。
7.余暇人
スポーツや文化活動などの趣味を持ち、それを楽しむ役割です。
8.市民
社会の一員としての社会へ貢献する役割です。ボランティアや地域の清掃活動、子どものPTA活動などが当てはまります。
ライフキャリア・レインボーを描こう
(参考)文部科学省「高校生のライフプランニング」
これまで紹介した5つの段階(ライフステージ)と8つの役割(ライフロール)の組み合わせを表したものが「ライフキャリア・レインボー」です。虹の色の太さは、その役割にどれくらいの時間と労力を使ったかを表します。
人は5つの段階を重ね、8つの役割を複数果たしながら人生を送ります。一般的には40~50代に最も多くの役割が重なると言われています。
30歳女性(会社員、既婚、子ども一人)の例を挙げると、様々な役割を果たしていることが分かります。
①職業人 30% 会社で働く
②親 30% 子どもを養育する
③家庭人 20% 家事全般を行う
④配偶者 10% 妻としての役割を果たす
④子ども 5% 実家に帰省して両親と会う
⑤余暇人 3% 休日に友人とランチする
⑥市民 2% 子どものPTA活動に参加する
「ライフキャリア・レインボー」を描くメリットとは?
自分の「今」が把握できる
一つ目のメリットは、自分の「今」が把握できることです。今、自分がどんな役割に一番時間や労力を費やしているか考えてみましょう。
今の生活をライフキャリア・レインボーで表すことで、「仕事に時間と労力を使いすぎてて、プライベートを楽しむ余裕がなかった」、「出産してから仕事の停滞感を感じていたけれど、むしろ”親”の役割が増えたことで新しい気付きが増え、仕事にも生かせるようになった」など、見えてくるものがあるはずです。
自分の「価値観」が確認できる
今まで自分が果たしてきた役割を書き出し振り返ることで、何に重きをおいてきたのか、どの役割に意味を感じてきたのかを確認できます。それにより自分の価値観を知り、今後のキャリア形成のための「強み」や「道筋」を見つけられるかもしれません。
将来なりたい自分を明確にできる
ライフキャリア・レインボーを描くことで、将来どんな自分になりたいかを明確にできます。
たとえば、10年後に育児がひと段落したら、「職業人」の役割を増やしたい(バリバリ働きたい)、「学生」の役割を増やしたい(大学に通って勉強し直したい)、「市民」の役割を増やしたい(ボランティア活動をしてみたい)など、将来の自分の姿を明確にし、それを目標にすることができるでしょう。
将来の変化に備えることができる
将来起こりうるライフイベントの変化に備えて、役割を調整する準備ができることも大きなメリットです。
当然のことながら、一人が一日に費やせる時間や労力は限られています。もし「●年後には出産して、子育てと両立させながら仕事を続けたい」と考えるのならば、「職業人」の割合は出産前より減り、「親」や「家庭人」の割合が増えるでしょう。
誰しも急な変化に対応することは難しいので、少しずつ家族の意識を変えるよう働きかけたり、仕事の量をあらかじめ調整したり、起こりうる変化に対して備えておくことはとても重要です。
まとめ
限られた時間の中で、「どの役割」を「どれくらい」果たしていくかは、人生を考える上でとても大切な土台になります。
キャリアは、「ビジネスキャリア」だけではありません。「自分の人生がどうありたいか」を考え、なりたい自分になるための「ライフキャリア・レインボー」を描いてみてはいかがでしょうか?
参考
文部科学省「高校生のライフプランニング」
日本キャリア・コーチング株式会社「ライフ・ステージ論- スーパー」