みなさんは「計画的偶発性理論」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。この理論では、個人のキャリアの8割は偶然の出来事によって決定されると定義しており、コロナ禍は言うまでもなく、ITの進化などで変化が激しく先行きの分からない現代に注目を集めているキャリア理論なのです。
キャリアの8割が偶然のものだとすると、明確な目標を持ち、キャリアアップのために計画的に努力したりすることは無駄なことなのでしょうか?
もちろんそんなことはありません。
そこで今回は、計画的偶発性理論の定義と、注目されるに至った背景や注意すべき点について解説します。
先の見通しが立たないこの時代に、自身のキャリアプランはどうあるべきかと悩んでいる方はぜひ参考にしてみてください。
クランボルツ理論とはどのようなもの?
クランボルツ理論とは、心理学者のジョン・D・クランボルツ教授によって1999年に発表されたキャリア理論の一つです。
クランボルツ教授がビジネスで成功を収めた人たちのキャリアについて調査したところ、成功へのターニングポイントとなった出来事の8割は、本人も予期せぬ出来事によるものであるという結果が出ました。そこでクランボルツ教授は「計画的偶発性理論」を提唱したのです。
従来のキャリアプランの立て方は、将来の目標を定め、そこから逆算し、何が必要となるのかを分析し、計画的にキャリアを積んでいくのが主流でした。
しかし、経済の急速なグローバル化が進み、IT技術の進歩は目覚ましく、社会の在り方もニーズもどんどん変化していく世の中になり、そのような世の中では、未来で何が起きるかなどという予想を立てるのは非常に難しいでしょう。
世界的な変化は個人の意思でコントロールすることはできませんし、たとえ自分自身のキャリアであっても外的要因の影響で自分自身が計画した通りにいかないことも大いにあります。
もちろん、何かに向かって努力をすることは素晴らしいことですが、個人の意向だけではどうにもならないことが起こりうる状況下では、目標に固執し過ぎていると目の前に訪れた想定外のチャンスも、みすみす逃すことになりかねない、とクランボルツ教授は指摘しています。
現段階であなたは10年後自分が何をしているとはっきりと予測できるでしょうか。先行きの不確かなこの時代で、自分の将来を確実に見据えることができているという人は少ないのではないでしょうか。
そのように確約のない不確かな未来では目標を定め、その実現に向けて計画を立て、それを確実に実行していくことは非常に難しいです。
今までの人生を振り返っても、100%思い通りの人生を歩んできたという人は少ないのではないでしょうか。
志があることは素晴らしいことですが、時代が変わると求められるものが変わるのは当然です。
さらに現代は新型コロナウイルスの出現により、今まで通用してきたビジネスが通用しなくなったり、全く新しいビジネスチャンスが出てきたりと、少し前の世の中では全く想像できなかった変化がおきました。そのこともあり、目標に固執しすぎない柔軟な選択を推奨する「計画的偶発性理論」が今、注目されているのです。
「計画された偶発性」理論を実践するための五箇条
計画的偶発性理論では、キャリア面での成功を収めるためには、何かきっかけが目の前にやってくるのをただひたすら待つのではなく、自らそうなるように引き寄せるための行動をとる必要があるとされています。
さらに成功するためのチャンスが巡ってきた時に、きちんとそのチャンスをものにし、結果を残すための実力をつけておくことも重要です。
では、成功できるチャンスを引き寄せる具体的な行動特性をご紹介します。
クランボルツ教授の主張によると、下記の5つが計画的偶発性理論を実践するために必要な要素であるとされています。
・好奇心:広い視野を持ち、学び続ける
・持続性:失敗に屈せず、努力を継続する
・楽観性:何事もポジティブに考える
・柔軟性:こだわりを持たず、固執し過ぎない
・冒険心:結果の予測ができなくてもリスクを取り、行動してみる
計画的偶発性理論を実現するために必要な行動特性では、発生した事象や周囲の反応・状況を意識し、そこに柔軟に対応する姿勢が求められることがお分かりいただけたでしょうか。
しかし、全部を完璧にしようとすると難しいと思います。そこで具体的に日頃から意識しておくといいことをまとめてみました。
具体的に必要なこと
それでは、次に「計画的偶発性理論」の実現のために日頃の行動で意識すべき具体的なことをご紹介します。
計画的偶発性理論では未来よりも、今のことを大切にすることが大前提です。成し遂げたい目標があったとしても、外的要因の影響を受け、実現できない可能性があります。
未来は予測ができませんが、それは同時にいつ好機が巡って来てもおかしくないということでもあります。自分が予期していなかった形やタイミングで、理想のキャリアが拓けるというのも可能性はゼロではありません。
しかし、「私は将来絶対にこうなる!」という目標を持ち、過程での計画も譲れないでいると目の前にやって来たチャンスにも気がつかずに、目標への道が閉ざされてしまう危険性もあります。
そこで大切なのがオープンマインドです。オープンマインドとは、さまざまな可能性を受け入れ柔軟に物事に対応しようとする姿勢のことです。「こうでなければならない」という意識を持たずにあらゆる出来事を受け入れる心構えをしておくことで、予期せずとも、結果的に望みを叶えるチャンスを掴む可能性が高まります。
具体的には、目下の人の教えには学ぶことはないと聞く耳を持たないのではなく、どんな立場の人の主張であっても、なにか学ぶことや勉強になることがあるのではないかと耳を傾けるなど、偏見のない心で物事を捉えようということです。
周囲に目を向け柔軟に考えることで、いつでもチャンスをものにできるようオープンマインドでいることを意識しましょう。
目標が叶わない可能性を感じると、とたんにやる気を失ってしまうことがあるのです。
実際に起こってしまったことですが、甲子園で優勝することを目標に掲げ、来る日も来る日も練習の励んだ高校生が、新型コロナウイルス流行のため甲子園の開催が中止されることを知らされました。
大会そのものが無くなってしまったので、甲子園で優勝するという目標はもちろん絶たれます。優勝できなかったことに学生の努力や実力は一切の関係がありません。書いているだけで胸が痛みますが、本人たちは形容しがたいほどの無力感を味わったことでしょう。
一つの明確な目標の達成のためだけに必死で努力を積み重ねてきた人ほど、目標の達成が叶わないことを受け入れるのに時間がかかるはずです。
このように自分の実力や選択の影響が及ばない外的な要素によって目標の達成が難しい場合があります。こうしたケースは、自身の選択や行動によってもたらされた結果ではないので、その分折り合いをつけるのが難しく、目標が絶たれたことでやる気を一気に無くしてしまうという人も少なくありません。
例えば、「将来絶対に一流の経営コンサルタントになる」と思っていたとしても、社会の変化により、経営コンサルタントという職業へのニーズが無くなった場合、その目標を実現することは難しいでしょう。
しかし、会社がより売上をあげられるようになるための手助けや、集客のお手伝いがしたいというようなざっくりとした目標であれば、経営コンサルタントという職業へのニーズがなくなったとしても、職種や企業、雇用形態を限定せずに理想を叶える可能性を検討できるので望み実現する可能性は高くなるのです。
一つの目標のために努力を続けていると、その目標が奪われてしまったとき、自分は何をすべきなのか見失ってしまい、何も行動できなくなる人もいます。
そうならないように、明確な目標を一つ持つのではなく、「どういう状態になりたいか」という方向性を考えておくとよいでしょう。
いろいろな可能性を考えられる頭でいると、全く関係のないと思われるジャンルの情報からで自身の理想を叶える思わぬヒントを得られるかもしれません。
しかし、関係のなさそうなジャンルの情報でも内容に関わらず追っていると、それだけで時間が過ぎ去ってしまいます。
そうならないために、自分はどんなキャリアを築いて行きたいのかという方向性を明確にしておく必要があります。
例えば、現在は週5で会社に出勤し会社員として仕事をしているが、ゆくゆくは独立し場所と時間に縛られずに生きていきたいと考えているのであれば、会社員の人の情報ばかりに耳を傾けるのではなく、どんなジャンルでもフリーランスや個人事業主として働いている人の発信を参考にするなどです。
現時点で、すでに社会人として数年会社にお勤めの状態であれば、学生の頃から起業している青年実業家の方などは年下の場合がほとんどでしょうが、そのような方が発する情報にも偏見のない心で耳を傾けてみるのも有益な情報を手に入れるひとつの方法です。
このように自身の方向性を明らかにしたうえで、そのヒントとなる情報がありそうなことに向けてアンテナを張り、それを取り入れていこうと試みることは、理想のキャリアを歩むための手助けになるのです。
生活をしていると仕事場でも、プライベートでもさまざまな人に出会う機会があります。
自分と全く違う人生を歩んできて、全く異なる経験をしてきた人いれば、自分では到底理解できないようなことに喜びを感じたり、情熱を持て取り組んでいる人も中にはいるでしょう。
そんな自分とは触れてきたものや思考が全く違う人に出会ったとき、「自分とは何の関係もない人」と決めつけてしまい、コミュニケーションをしないということはありませんか?
自分の価値観では理解できない人と話すのは時間の無駄だ、学ぶことは何もないと考えてはいないでしょうか。しかし、そういった出会いをスルーしてしまうことで、自分の望む未来への近道を自ら遠ざけているかもしれません。
ビジネスにおいても人生全体においても、何がターニングポイントだったかを聞かれた時に、人との出会いと答える方は非常に多いのです。
学生時代に出会った恩師の言葉から現在の道を歩むことに決めた、というのエピソードは珍しいものではないでしょう。あなたも出会いによって考え方や進みたい道が変わったという経験はないでしょうか。
また、人との出会いの他にも、出来事も人の人生に大きな影響を与えます。ペットの死が悲しくて、獣医になった。火災事故に遭ったときに助けてくれた消防士さんに憧れて、消防士を目指した。このように人の夢や、行動のヒントをえるものに出来事も十分に成り得ます。
現時点で、自分の興味関心とは関係が全くないように思えるから、スルーしてしまうとせっかくのチャンスを逃してしまうことにもなりかねません。
目標が不要なわけではない
方向性を定め、目標に捕らわれすぎないことが大事と説明してきましたが、目標は全く不要ということではありません。
しかし、あまりに明確すぎる目標や外的要因により実現が不可能になる可能性の高いものは設定しない方がよいということです。
あくまで自分は最終的にどのような状態なりたいのか、どんな生活を送りたいのかというような目標を持ち、それを実現するための方法もひとつに捕らわれず、自分が予期していなかったものであっても、よさそうだと思うものがあれば随時、柔軟に取り入れられるような思考を持っておきましょう。
具体的な特定の目標を持ち、その達成に向けての過程まで決めきってしまうと、他のことに目を向けられなくなってしまうので、目標にも、その過程にも固執しすぎないことが大切です。
まとめ
従来の目標から考えるキャリアプランに馴染みのある方は、目標にはあまり捕らわれずに行動すべきという計画的偶発性理論の主張には、戸惑いを覚えるかもしれません。
しかし、決して何も目指さないというわけではなく、目指すものの為により多くの可能性を考えて、何事も柔軟に選択していくことが最も重要です。
自分の中で譲れない方向性が明確になっていたら、流されることはありません。こんなご時世だからこそ、クランボルツ理論を理解して柔軟なキャリア形成をできるようにしていきましょう。