「今は考えていないけど、いつか子どもを授かれたら。」妊娠ができる前提でライフプランを立てていませんか?
この記事は、街角キャリアメンテナンスでカウンセラーを担当し、どのように生きていきたいかを含め、社会人のキャリアをサポートする庄司峰子さんのインタビューです。
彼女も「いつかは子どもが欲しい」、そう思いながらキャリアを歩んできました。
ですが、その「いつか」を迎えるために30代で5年間の不妊治療を経験したことで、キャリアに対する考えも大きく変わりました。
考えもしていなかった、不妊治療のスタート
−本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、庄司さんのこれまでのキャリアの歩みを教えてください。
人材総合サービス会社にて、人材派遣の営業・コーディネーター、企業の新卒採用に関する営業・営業推進業務等に従事していました。その後、32歳の時にスタートした不妊治療と仕事の両立に限界を感じ、37歳で退職。その後、子どもを授かりました。
現在は、国家資格キャリアコンサルタントやCDA資格、不妊ピア・カウンセラー資格をいかし、不妊当事者への心のケア・仕事との両立支援サポートをスタートしたところです。
−不妊治療をされていたのですね。
はい。30代前半で思いがけず不妊治療をすることになり、それが退職のきっかけとなりました。
私は32歳で結婚をしました。1年ほどで妊娠ができればいいな…との想いがあったので、念のため妊娠できる状態なのか検査をしてみようと産婦人科を受診すると、お医者様から「妊娠適齢期はとっくに過ぎている」と厳しいひとことが返ってきました。それでも世間では高齢で出産する人が増えていて、まだ32歳だし、「すぐに取り組めば大丈夫だろう」と楽観的に考えていて。周囲に不妊治療をしている人もいたのに、なぜか自分は大丈夫だと思っていたんです。
その後実際に治療を始めるも、思うようには授かりませんでした。治療がステップアップしていき、結果的に5年間不妊治療を続けることに。不妊治療は高度になるほど仕事との両立が難しく、心も身体も限界に達し、退職を決意しました。
仕事と妊活の両立、心身の疲弊
−やはり、不妊治療と仕事の両立は難しいものなのでしょうか。
そうですね。治療がステップアップしていくと、通院の頻度が高くなるだけでなく、「明日もう一度来てください」と言われることもよくあります。仕事の予定を急にキャンセルしなければならなかったり、先の予定を組みにくくなるという難しさがあります。また、待ち時間が長く、いつ終わるかわからないまま4,5時間病院に滞在することも稀なことではなく、午前休のつもりが午後の出勤時間に遅刻をしたり、治療による体調不良でそのまま休まなければいけないこともあります。常に職場に迷惑をかけているという申し訳なさがありましたね。
こういった状況が続くと、責任のある仕事を自然と拒否する気持ちに傾いていきます。キャリアの停滞につながる要因の一つだと思います。
−5年間も続けていると、やはり精神的にも苦しいですよね。
そうですね。前提として、子どもが授からない苦しさや焦りあり、加えて職場に迷惑をかけていると感じる申し訳なさや、周囲の方の妊娠出産を見聞きすることでのつらさ、当時は保険適用ではなかったので、毎回40〜60万円くらいかかる治療費の負担が重なっていく感じです。
まさに出口のないトンネルを彷徨っているような気分でした。休みの日に日当たりの良い明るい部屋にいても、目の前が真っ暗な状態が何年も続いていましたね。
子どもができないということだけでなく、職場で感じる居づらさも自分を追い込んでしまった要因の一つでした。決して、環境に恵まれなかったというわけではないんです。上司や同僚が不妊治療のことを理解し、寛大な配慮もしてくれました。
ただ、不妊治療はゴールが見えない治療で、長くなればなるほど申し訳なさや焦りが芽生えてきて。同僚が出産や昇進していく姿を見ると、妊娠もキャリアアップもしていない、「何も変わらない自分」と比較してしまい苦しかったです。
−仕事と不妊治療を両立させようと頑張っていたからこそ、悩みも大きかったのですね。
そうかもしれません。仕事に全力で取り組みたいと思っているものの、自分のエネルギーは限られている。仕事にエネルギーを使ってしまうと、妊娠ができなくなってしまうのではという不安が常にありました。1回の治療費が高額なので、治療に全力を注がなければという気持ちにもなります。そうすると、どうしても仕事にブレーキをかけてしまうんです。その葛藤が苦しかったです。
頑張りたいけど頑張れないもどかしさや、周りの人への申し訳なさなどもあって、職場での居づらさが増していきました。
最後の選択肢としての、退職
−庄司さんが退職を悩んでいた時に、相談していた相手などはいましたか?
あまり相談はできていなかったかもしれません。基本的には、夫に気持ちを聞いてもらうくらいで。
ただ、退職を考えていた時に国家資格キャリアコンサルタントを取得中だったこともあり、勉強のためにとプロのキャリアカウンセリングを受けました。そこで不妊治療と仕事の両立について話をしました。
正直私の中では、相談をしたかったというよりはプロのカウンセリング技法について学びたかったという意図で受けていました。ですが、自分の話を丁寧に聞いてもらえたのはとても良い機会になりましたね。実際、カウンセラーの言葉によって退職を決意することもできたし、今のキャリアを生きる糧にもなっています。
−その後退職をされていますが、後悔はありませんか?
はい。仕事を辞めたことで、気持ちの整理がついた感覚がありました。後悔がなかったのは、自分に向き合い、何度も考えた上での退職という決断だったからだと思います。
辞めた理由は不妊治療に専念するためだと思われることもあるのですが、そうではないんです。当時は心身ともに限界で、子どもを望むこと自体をやめたかったという気持ちでした。仕事という負荷がない状態で最後に一度だけ治療をして、それでもダメだったら諦めもつくかなと。
結果、退職後の治療で奇跡的に授かることができました。
−なるほど。不妊治療がなければ、今も会社で働いていたと思いますか?
そうですね。仕事をしながら授かるのが一番理想的だと思っていました。
「仕事を辞めたら子どもが出来た人がいるよ」とよく聞いていたのですが、できれば辞めたくはありませんでした。ただ、心のどこかで、仕事を辞めたらどうなるのだろうかという想いがあって…。もし仕事を続けながら子どもを望むことをやめたとしたら、この想いが10年後、20年後の後悔に繋がってしまうことだけは確信できました。「あの時、仕事を辞めていたら…」と想像することは、子どもを授かる可能性とキャリアどちらも失うことよりももっと辛いことだと思ったんです。
もちろん、仕事を続けながら不妊治療の終結を決めることも選択の一つだと思います。自分が納得できる選択をすることが大切。ただ、自分の価値観や大切にしたいことがわからないと、何を選択したら良いかすらわからない。
価値観を知るためには、自分としっかり向き合うことが大切です。その一つとしてキャリアカウンセリングがあると思います。
自分の生き方を肯定的に捉えられるように
−国家資格キャリアコンサルタントを取得した理由を教えてください。
元々、人材サービスの仕事をしていた頃から資格の存在は知っており、興味を持っていました。不妊治療と仕事の両立に限界を感じ、退職をすることへの不安や葛藤で悩んでいた時に、「今キャリアについて学ぶことは、何かしら考えるヒントになるかもしれない」と思い、取得しました。
−資格取得を通して、何か得られたものはありましたか?
自分の生き方を肯定的に見ることができるようになりました。
キャリアについて勉強をする中で、仕事だけではなく、人生全体を含めたライフキャリアの考え方に出会いました。
以前は、30代後半で会社を退職することがキャリアを断絶してしまうように感じ、将来に対する不安がどうしても拭えませんでした。ですが、さまざまなキャリア理論を学ぶにつれ、年齢に応じて社会での役割が変わっていくことを知ったり、仕事以外のことに集中する期間があっても良いと思えるようになって。もっと柔軟に生きていいと教えてもらった気がします。
悩みを抱える社会人にひとこと
−最後に、キャリアに悩みや不安を抱える社会人に向けてひとことメッセージをお願いします。
小さな悩みと感じることでも、人には言いにくい悩みでも、安心してお話をしに来てください。
モヤモヤをそのままにせず、定期的に自分の気持ちを整理したり、自分の価値観と向き合ったりすることは、その時々で大切にしたいことをアップデートすることでもあります。この先、大きな決断を前にした時に、納得のいく選択ができるよう準備しておくことは、心の安定にもつながるはずです。
悩みを抱えて行く特別な場所というよりは、いつでも扉が開いている保健室のような場所でありたいと思っています。キャリアカウンセリングをもっと身近な存在として日々の生活の中で活用していただけたら嬉しいです。
結婚や出産を望む・望まないも自分次第。いろいろな生き方や価値観が認められる世の中になってきましたよね。仕事という意味でのキャリアだけでなく、ライフ全体を通したご相談もお待ちしています。
自分らしい生き方について、一緒に考えていきましょう。