みなさんのキャリアは、大学生の就活生だった頃に描いていたものになっているでしょうか。
結婚、妊娠、介護…さまざまな要因が重なり、思いもよらない人生を歩んでいるかもしれません。
この記事は、街角キャリアメンテナンスでカウンセラーを担当し、社会人のキャリアを導く、小林文子さんのインタビューです。
彼女も想像通りの人生ではありませんでした。ですが、目の前のことに一生懸命取り組むことで出来上がったキャリアのなか、カウンセラーとして自分と相手に向き合っています。
白紙の人生を、どう生きていくか
−本日はよろしくお願いします。早速ですが、小林さんのこれまでのキャリアの歩みを教えてください。
大学卒業後、人材・広告系の企業に入社しました。8年ほどは支社勤務で、大学・専門学校で就職ガイダンス講師などの就職支援を行っていました。その後、31歳で社内規定を整える管理部署の立ち上げに伴い、その責任者として東京本社に異動。現在は、業務フローの整備・運用、システム開発などに従事しています。
−新卒で入社した会社で、キャリアアップをされてきたのですね。東京本社への異動は、かなり大きな転機だったのではないでしょうか。
その通りです。もともと東京で働くということは考えたこともなく、この異動自体も、自身のキャリアについて行き詰っているという相談を上司にした際に、予想もしてなかった異動のお話をいただいたんです。
遡れば、キャリアについて本気で考えだしたきっかけは、28歳の頃だったと思います。というのも10代の頃から、私は占いに行くたびに「28歳で結婚するよ」と必ず言われていたんです(笑)。それもあってか、20代の頃は28歳で結婚し、子どもを産んで…という人生設計を前提として、キャリアを描いていました。
ですが、実際にその歳を迎えても結婚する兆しもなく…「あれ?これからどうするんだろう?」と今後の人生が白紙になってることに気づいたんです。
その時に改めて、自分は人生をどう生きていきたいのかを考えだしたんですね。今振り返れば、それまで描いていた人生設計は幼い頃からの刷り込みや思い込みも強く、自分で考えて「選択」したとは言えないものだったように思います。
一人で抱え込んだ、大きな決断
−キャリアについて悩みだした大きな理由は何だったのでしょうか。
自分が会社から期待されているものに応えられていないという思いが、年々強くなっていたことです。新卒で入社後、8年ほど同じ仕事をしていたため、慣れもあってか年々新しい発想やワクワクする気持ちが薄れている自覚があって、自分はこのままここにいていいのかな、という思いが徐々に強くなっていました。
そのような理由で、上司に今後について相談をすると、今の社内の業務フローを整備をする部署への異動のお話をいただきました。東京転勤ということで戸惑いはあったものの、当時、偶然読んでいた本の影響で「業務フローを仕組み化する」という考え方に非常に興味を持っていたこともあり、タイミングの良さも相まって二つ返事で異動を決意しました。
−ありがとうございます。小林さんがキャリアについて悩んでいた時に、相談していた相手などはいましたか?
私は学生の頃から、自分のことについて人に相談するということはほとんどありませんでした。なぜなら、人生においての大きな決断は、自分で決めたいと思っていたからです。人の意見を聞くと、どうしても揺れてしまうので…。
ですが、20代後半は、数年に渡って複数のカウンセリング資格の勉強を集中的にしていた時期で、授業の一環として互いに自分のことについてカウンセリングをしあう機会が多くありました。その後、突然全く想定していなかった異動の話をもらうことになるのですが、それに即答できたのも、それまでにカウンセリングの勉強を通して自分について考える時間を十分とっていたからだと思います。
特に、カウンセリングは、人に相談して意見を聞く場所ではなく、壁打ち相手のようなもの。話を通して内省を促してくれるので、自分が何をしたいのか、何が好きなのか、どんな人生を歩みたいのかについて集中的に考えた時期だったなと思います。
目の前のことに一生懸命に取り組むことで、キャリアは出来ていく
−小林さんは、2級キャリアコンサルティング技能士など、キャリアカウンセリング系の資格を複数保有されていると思います。何か取得のきっかけがあったのでしょうか。
資格取得を通じてキャリアについて学ぶことで、学生により良い指導ができればと思ったのがきっかけです。例えば、就職ガイダンスをしている中で、「5年後・10年後を見据えて今を考えよう」といった話をすることがあるのですが、年を重ねるごとに自分の人生については全く想像した未来になっていなくて、未来を描く難しさを感じていました。
結婚以外にも役職のことなど、自分の想像していなかった未来になっていることが多くて。でも、だから不満というわけではなく、思いもよらなかった未来だけれど、当時の私が思っていた以上に、今の現実の方が面白いという感覚でした。
そのため、カウンセリングの勉強を通して、将来の目標を定めそれに向かって努力していく考え方とは別に、目の前のことに一生懸命に取り組むことで自分のキャリアを切り開いていくという考え方があることを知り、とてもしっくり来たんですね。その上で、どちらが正しいというわけではなく、人によってタイプがあると思い、資格取得を通してキャリアに対する考え方の幅が広がったと思います。
また、最近は時代の変化とともにキャリアに対する新しい考え方がどんどん出てきていますよね。私も今現在は、会社でのキャリアとは別に、副業としてカウンセラー活動をしており、会社で働くことで学べること、個人で活動することで学べることがそれぞれあり、相乗効果が得られるなという手応えを感じています。
「キャリア自律」という考え方があるんですが、退職した後の人生も想定して、自然と個人を主軸にしたキャリアの考え方にシフトチェンジしていっているように思います。ただ、その出発点は、ただただカウンセリングが面白くて、もっと活動をしたいという思いの延長なので、決して計画的なものではありません。それが結果的に時代にマッチしてるのも面白いですね。
抱え込まずに、相談することの大切さ
−キャリアカウンセリングについて学ぶ中で、小林さん自身に変化はありましたか?
カウンセリングを学んだことで、人に相談しようと思うようになりました。
勉強するまでは、自分の中で答えが出てから背中を押してもらうために人に相談することが多かったんです。ただ、今はモヤっとしたら早めに人に聞いてもらって感情を消化・整理した方が後に大きな問題にならずに済むと思っていますし、人に頼っていいんだと思うようになりました。
−カウンセリングの知識を持っていても、自分では解決できないものですか?
時間をかければ自分一人で解決できるかもしれませんね。ですが、人に頼った方が早くて(無闇に自分を責めたりしないので)安全だと思います。
特に自分の見たくないところってあると思うんですよ。だから、一人で解決しようとすると、そのような部分を避けたりして、根本的な問題から離れてしまいがちなんですよね。ですが、相談相手がいると会話の中で自然と核心に向き合えますし、内容によっては扱うのに勇気が必要なことも、カウンセラーという伴走者がいると安心して向き合えるという効果もあると思います。
もちろん相談相手は家族、友人でもいいとは思います。ただ、仲のいい人に相談しようとすると、自分の欲しい答えをくれそうな人に相談してしまったり、もしくは知り合いだからこそ言えないことがあったりして、根本的な解決には至らないことも多いように思います。だからこそ、自分と向き合いたいときには、カウンセラーという選択肢をもっておくといいかなと思います。
悩みを抱える社会人にひとこと
−キャリアに不安や悩みを抱える社会人に向けてひとことメッセージをお願いします。
社会人になると特に「自分のメンタルくらい自分でどうにかしないと!」と思っている方も多いように感じますが、「自分で選択・決断すること」と「一人で解決しようとすること」は別かな、と思います。もちろん、最後に決断するのは自分ですが、その過程で人に頼ってもいいかな、と。特に「困ったらあの人に相談しよう」という選択肢があるだけで、楽になることもあるかと思うんです。
また、私は、キャリアは転職や退職などの大きな転機の時のみに考えることではなく、日々メンテナンスをしていくものだと思ってますし、何より日々心地よく過ごす中でこそ、健全な決断が出来るものだと思ってます。
そのためにも、体のメンテナンスと同じように、心もメンテナンスするという発想があっていいと思うんです。なので、息苦しさや、窮屈さ、モヤモヤするなどのネガティブな感情を感じるのであれば、小さな悩み・違和感でもぜひご相談ください。キャリアのことはもちろん、日々をどう過ごしたいのか、人生をどう生きていきたいのかについて一緒に考えていきましょう。